大会前のメンタル、親ができるサポートとは?
スケートの大会を控えると、普段の練習ではできていたことがうまく発揮できなくなる子がいます。リンクに立った瞬間に体が固まり、思うようにジャンプやスピンが決まらない。その背景には、強い緊張や不安があります。これは特別なことではなく、「勝ちたい」「うまくやりたい」という思いの裏返しであり、決して能力不足ではありません。むしろ、真剣に取り組んでいるからこそ生まれる自然な反応だと考えることが大切です。
心理学では「逆U字仮説」と呼ばれる考え方があり、緊張がほどよいときに最も集中力とパフォーマンスが高まるとされています。ところが緊張が強すぎると、呼吸が浅くなり筋肉が硬直して動きがぎこちなくなります。一方で緊張が低すぎると集中が続かず、ぼんやりしてしまいます。つまり、大会前に子どもが感じるドキドキは決して悪いことではなく、適度に働けば本来の力を引き出す助けになるのです。
しかし子どもにとって、自分の緊張をうまく扱うのは容易ではありません。そこで大きな役割を果たすのが保護者の声かけです。まず避けたいのは「落ち着いて!」「緊張するな!」といった言葉です。こうした言葉は一見励ましのようですが、実際には「緊張してはいけないんだ」と意識させてしまい、かえってプレッシャーを高める原因になります。同じく「失敗してもいいよ」といった表現も、頭に「失敗」というイメージを植え付けやすいため逆効果になることがあります。さらに「優勝できると信じてるよ」「今日は一番いい演技をしてね」といった期待を込めた言葉も、子どもの肩に過剰な重圧を背負わせてしまいます。
ではどんな言葉が適切でしょうか。鍵になるのは「普段どおり」という感覚を持たせることです。「今日はどれくらいできそうかな?」「いつも通りで大丈夫だよ」といった言葉は、子どもの気持ちを落ち着け、安心して演技に臨める環境をつくります。また、言葉は否定形ではなく肯定形に置き換えるのが効果的です。「ミスするな」ではなく「一つ一つ丁寧にやろう」、「緊張するな」ではなく「深呼吸して集中しよう」といった声かけが、子どもの意識を行動に向けさせます。さらに「最後まであきらめないで滑ろう」「思い切り楽しんでおいで」といった、自分でコントロールできる行動を目標にする言葉が、子どもに適度な集中と前向きなエネルギーを与えます。
また、子どもが「緊張する…」と打ち明けたときには、その感情を否定せず「そうだね、頑張りたいからこそ緊張するんだよ」と共感してあげることが大切です。緊張を「ダメなもの」とせず、「やる気の証」と捉えるだけで、子どもは安心感を得て前向きに切り替えることができます。こうした親の言葉が、緊張を力に変えるための支えとなります。
発達心理学の観点からも、保護者の関わり方は子どもの自信や意欲の育ちに直結します。親が「もっと頑張れ」「あの子に負けるな」と過度なプレッシャーや比較を持ち込むと、子どもは「自分はダメなんだ」と感じやすくなり、自己肯定感を下げてしまいます。すると「怒られたくない」「褒められたい」といった外発的な動機に偏り、競技そのものの楽しさが失われやすくなります。結果として意欲が低下したり、競技そのものを嫌いになってしまう恐れもあります。
そのため、日常から子どもの努力や成長を評価する姿勢が求められます。結果ではなく「最後までやりきったこと」「昨日よりスピンが安定したこと」を褒める。他の子ではなく過去の自分と比べて「前よりできるようになった」と伝える。そして成績に関係なく「一生懸命頑張っている姿が素敵だよ」と存在そのものを認める。こうした積み重ねが、失敗を恐れず挑戦する勇気につながります。特にフィギュアスケートのように長期的な取り組みが必要な競技では、短期的な結果にとらわれず、長い目で見守る姿勢が重要です。
加えて、保護者自身の不安も見逃せません。わが子の試合を前に親の方が緊張してしまうのは自然なことですが、その不安が子どもに伝わると余計なプレッシャーになります。子どもは親の表情や態度に敏感ですから、観客席でソワソワしている様子や過剰な期待は、子どもの心を乱す要因になりかねません。親がどっしり構え「あなたなら大丈夫」と信じる姿勢を見せることが、子どもに安心感を与えます。自分の気持ちが不安で揺れ動いているときは、深呼吸したり同じ立場の保護者と前向きに話すなどして整える工夫も役立ちます。
もし失敗を恐れる気持ちが強い場合には、あらかじめ「転んでも最後まで滑りきれば十分だよ」と伝えておくことも効果的です。こうしたメッセージは、子どもに「完璧でなくてもいいんだ」という安心感を与えると同時に、保護者自身も細かな結果に一喜一憂せずに見守る心構えができます。大会後も結果だけに注目するのではなく、「今日の演技で良かった点」を見つけて伝えることで、子どもは自分の努力を認めてもらえたと感じ、次への意欲が湧いてきます。
大会本番は、子どもにとって大きな心理的な試練です。しかし保護者が適切にサポートすれば、その緊張や不安は成長の糧になります。緊張は悪いものではなく、力を引き出すために必要なもの。親がその意味を理解し、温かく支える姿勢を持つことで、子どもは安心して本来の力を発揮できます。結果以上に、そこに至るまでの努力や挑戦の姿を認めてあげること。それが子どもを「本番に強い選手」へと導く第一歩となるのです。⛸📝
参考リンク:
子どもが試合で緊張しない!トップアスリートも実践する「心の準備術」 https://note.com/mi_s140/n/nb3968774ab5c
メンタルトレーニング技法|ハイパフォーマンススポーツセンター https://www.jpnsport.go.jp/hpsc/study/sports_psychology/tabid/1473/Default.aspx
跳ぶのが怖いフィギュアスケート選手へ(秋山泰隆) https://note.com/hokkaido_mental/n/n3840b3030d14
親のほうが緊張?子どもの試合や発表会での見守り方 https://sport-school.com/largeha/%E8%A6%AA%E3%81%AE%E3%81%BB%E3%81%86%E3%81%8C%E7%B7%8A%E5%BC%B5%EF%BC%9F%E5%AD%90%E3%81%A9%E3%82%82%E3%81%AE%E8%A9%A6%E5%90%88%E3%82%84%E7%99%BA%E8%A1%A8%E4%BC%9A%E3%81%A7%E3%80%81%E5%AD%90%E3%81%A9/
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