フィギュアスケートを続けると、地方大会や全国大会に遠征する機会が増えていきます。小中学生の選手にとって、初めての遠征は楽しみであると同時に、大きな緊張や不安の要因にもなります。保護者にとっても、荷物や移動の準備、宿泊の手配、当日のスケジュール管理など普段以上の役割が求められるため、気づかぬうちに心身の負担が大きくなります。そこで大切なのは、
遠征を「特別な非日常」ではなく「いつもの延長」として整えることです。環境が変わってもできる限り普段と同じリズムを維持することが、子どもが安心して本番に臨むための第一歩になります。
移動と宿泊の工夫
大会会場までの移動は、子どもの体調やメンタルに影響します。長距離の場合は大会前日に現地入りするのが望ましく、交通トラブルや渋滞のリスクを減らす意味でも余裕を持った計画が安心です。飛行機利用であれば、必ず
スケート靴や衣装は手荷物として持ち込むようにし、万一のロストバゲージに備えるとよいでしょう。車移動の場合は、途中で休憩を挟み、体をこまめに動かして疲れを残さない工夫が必要です。移動中はリラックスできる音楽や軽い会話で緊張を和らげるのも効果的です。
宿泊先は会場から近く、移動の負担が少ない場所を選ぶのが基本です。慣れない環境で落ち着かない子どものために、お気に入りの枕やタオルを持ち込むなど
「ホーム感」を作る工夫も有効です。朝食の内容や提供時間を確認しておき、試合当日に必要なエネルギーを補給できるよう備えることも忘れてはいけません。
食事と栄養管理
遠征先では食事が乱れやすく、体調を崩す原因となります。試合前は
消化の良い炭水化物を中心に摂ることを心掛け、脂っこい揚げ物や生ものは避けるのが基本です。特におにぎりやパンは手軽で定番ですが、具材は鮭や梅干し、あんこなどシンプルなものを選び、ツナマヨや揚げ物入りは控えます。試合当日の朝は食欲が落ちがちですが、少量でもエネルギー源を確保することが重要です。バナナやゼリー飲料など
喉を通りやすい補食を用意しておくと安心です。
また、試合直前の水分補給も大切です。常温の水やスポーツドリンクを少しずつ飲ませ、糖分の多すぎる飲料やカフェイン入り飲料は避けましょう。普段食べ慣れているものを持参することで、慣れない土地での不安も和らぎます。
栄養面の工夫は体調を守るだけでなく、心の落ち着きにもつながるのです。
荷物準備と忘れ物防止
大会遠征で保護者がもっとも神経を使うのが荷物の準備です。現地での「忘れ物」は大きな不安につながります。そこで役立つのが、必携の
「5つの必需品」を意識することです。すなわち、
身分証、衣装、スケート靴、日本代表ジャージ(海外遠征時)、音源CDやUSBです。この5つさえあれば最低限試合に出られると考え、それ以外は現地調達も可能と割り切ると余計な不安が減ります。
もちろん、練習着や予備の靴ひも、ヘアメイク道具、タイツや靴下の替えなど細かいものも欠かせません。出発前に子どもと一緒に
チェックリストを確認し、責任感を育てながら準備を進めることも大切です。こうした習慣は将来、親の付き添いが難しくなったときにも自分で身の回りを管理できる力になります。
大会当日のスケジュール管理
大会当日は、公式練習、ウォームアップ、本番演技と、時間に沿った行動が求められます。保護者はあらかじめタイムテーブルを確認し、逆算して準備の流れを作る役割を担います。「あと30分でアップ開始だからそろそろ靴を履こうか」といった
穏やかな声かけで、子どもが落ち着いて流れに乗れるよう支援します。直前に慌てることが最大の不安要因になるため、余裕を持った準備を促すことが肝心です。
また、ヘアメイクや衣装の準備も計画に含めましょう。特に女子選手は時間がかかるため、宿泊先でできる部分は済ませ、会場では最終確認程度にとどめると余裕が生まれます。休憩時間には軽食や水分補給を挟み、
体力と集中力を最後まで保つよう調整するのも保護者の大切な仕事です。
環境の変化に慣れる工夫
普段と違うリンクは、子どもにとって大きな不安要素です。事前に会場入りし、リンクの雰囲気や氷の感触を確かめておくことは、不安の軽減につながります。もし公式練習があれば積極的に参加し、滑走感や照明、観客席の位置などを確認して
「知っている場所」に変える準備をしておきましょう。
さらに、
いつものルーティンを崩さないことも有効です。本番前の深呼吸やストレッチ、音楽を聴くなどの習慣をそのまま実践することで心が落ち着きます。親も「普段どおりでいいよ」と伝え、特別なことを求めず普段の流れを尊重する姿勢が子どもの安心につながります。
心理的サポートのポイント
大会前に子どもが「緊張する…」と漏らすのは自然なことです。そのときに大切なのは、
緊張を否定せず受け止めることです。「緊張するな」ではなく「それは頑張りたいからだよ」と声をかけると、緊張を前向きに捉えられます。さらに「失敗してもいいよ」という言葉は、かえって失敗を意識させてしまうため避けた方がよいでしょう。「一つひとつ丁寧に」「普段の練習どおりで大丈夫」といった等身大の声かけが、子どもの心を落ち着かせます。
また、
親自身の不安も子どもに伝わりやすいため注意が必要です。保護者がソワソワしていると、子どもは「何か大変なことが起きるのでは」と敏感に感じ取ってしまいます。親がどっしり構え、笑顔で送り出すことで、子どもは安心してリンクに立てるのです。保護者同士で「緊張しますね」と共有することも、自分の不安を和らげる助けになります。
トラブルへの備え
遠征や大会には予期せぬトラブルもつきものです。渋滞や電車の遅延、衣装の破損や靴のトラブル、体調不良などに備えて、
代替手段を用意しておきましょう。例えば予備の衣装や音源を持参する、応急処置用の裁縫道具や救急セットを準備する、病院の場所を調べておくなど、小さな準備が安心につながります。親が冷静に対応すれば、子どもも落ち着きを取り戻しやすくなります。
おわりに
遠征や大会期は、親子にとって普段の練習以上に大きな挑戦の時間です。準備を整え、当日は親が落ち着いた雰囲気をつくることで、子どもは安心して本来の力を発揮できます。忘れ物を防ぎ、食事や睡眠を整え、緊張を前向きなエネルギーに変えるサポートこそが、保護者にできる最も大きな役割です。
「準備は周到に、当日は朗らかに」。その姿勢が、子どものベストパフォーマンスを引き出すことにつながります。遠征の経験は、結果だけでなく親子の絆を深める大切な時間になるでしょう。⛸📝
参考リンク:
忘れ物防止の工夫(元選手インタビュー)
https://cocokara-next.com/athlete_celeb/yukarinakano-takahikokozuka-09/
試合前の食事の工夫(THE ANSWER)
https://the-ans.jp/junior-2/163281/
メンタルトレーニング技法|ハイパフォーマンススポーツセンター
https://www.jpnsport.go.jp/hpsc/study/sports_psychology/tabid/1473/Default.aspx